今年6月7日に一般的に言われている「日本版SOX法」と呼ばれる法律が国会で成立しました。この法律には、上場企業に内部統制システムの整備や内部統制報告書の提出を義務付ける条文が明記されています。報告書の提出を怠ったり、虚偽の報告書を提出した場合の罰則規定を設けるなど、非常に厳しい内容になっています。
米国で不正会計処理事件を受けてSOX法が成立し、日本においても大手企業の会計不祥事が起こる中、その防止策としての法律の制定は時代の流れといえます。また、日本が急速に契約社会に向かう途上での象徴的な事象と捉えることもできるでしょう。いずれにせよ、上場企業はこの法律の対応に大きな経営資源の投入を強いられることになります。
こうした待ったなしの状況を受けて、世間では様々な議論が起こっているようです。しかし、肝心なポイントは、社員の一人ひとりがロジカルにリスクを考慮し担当業務の文書化を効率的に遂行するという領域が新たに発生するわけです。
リスクの想定はただ漫然と取り組んでいては、重複作業やヌケ・モレが生じてしまいます。また、たとえリスクを想定できたとしても、それらを適切に表現し、また絞り込まなければ、経営資源の浪費になります。例えば、発生する可能性が低かったり、もし発生した場合の影響も軽微なリスクについて対策を講じることは、合理的ではありません。
また、文書化では、あらゆる事象を明確に表現する能力も重要となります。よく言われる「一言でいうとどうなるか」、「ポイントは何か」、「何が言いたいのか」といった問いに的確に答えられる日本語の表現力も不可欠となります。
これらはロジカルな思考技術を活用することで、効率的に遂行することが可能です。多くの日本人がロジカルな考え方を身に付けることが緊急の課題と言っても過言ではないでしょうか。従って、一人ひとりの思考技術力の強化に、何の対処も施さないままシステムだけを導入すると、現場は大変な混乱に陥る可能性があります。
ロジカルな思考技術は訓練さえすれば、誰でも修得することができます。システムの導入とともに、社員の思考様式の再編成を試みること。日本版SOX法という大波を乗り切る1つの鍵はそこにあると、私は思います。
それにしてもヨーロッパにおいては、日本や米国のように大きな社会問題となるような不祥事が発生しないことは、大変興味深い現象ではないでしょうか。これは国の歴史や文化の伝承と、そして社会の指導的な立場になる人々の教育のあり方と無関係ではないのかもしれません。