ここで言う「目に見えない製品」とは、経営における「知的業務」の結果である意思決定やリスクに対する諸判断と諸対策のことです。
最近、来日した米国の友人に、「世界的に評価されていた日本製品の品質に何が起きているのか」と尋ねられました。日本では、ものづくり大学の創設など製造技術を伝承するための対策に力を入れていますが、一方で、ここ1年の間、国内外で品質問題が多発していることは確かです。
我国では、QC、TQC、TQM等の技法が確立され、製品不良に対して適切な対応がなされてきた結果、高い品質を保持してきました。ここでいう製品は、目に見える製品だったことは言うまでもありません。そのため、不良や不具合が発生すると、現場に足を運び、事実関係を目で確認し、原因を特定して適切な対策を打つという一連の手法が可能であり、日本はこれを得意としてきました。
ところが、今発生している問題の中には、現場に行って確認できなかったり、行けても目で確認できないケースが少なからずあります。例えば、ロケットの打ち上げでは、打ち上げ後に本体にトラブルが発生したとしても、現場に赴くわけにはいきません。あるいは、高度に電子化された製品が不良を起こした場合も、チップの中を覗いて原因を目視することは不可能です。いずれも起こった後に対策を考えるのでは遅すぎます。
そこで、上流の設計が完成した段階で、多くの工数をかけて、起こりうる現象を想定し、適切な対策を策定し、これらを設計にフィードバックさせ組み込むといった、ロジカルシンキングをベースとする新しい品質管理が重要となります。従来は目に見える作業が中心であったため、製品の品質管理と対応が比較的容易でした。今後は、デジタル化が加速する中、目に見えない部分への困難な対応がますます多くなり、そこでは、可能な限り論理的・科学的なアプローチが必要となるのです。
しかし、残念ながら論理的な領域では日本は欧米に大きく水を開けられているといっても過言ではありません。我国の宇宙事業と米国NASAを比較すれば、その違いは一目瞭然と言えるのではないでしょうか。このギャップを拡大させないための対策が急務だと、私は思います。私は、この領域に関する事業に関わって23年になりますが、その基本的なロジックは普遍的であり、国際的なデファクトスタンダードにつながるものです。