飯久保廣嗣 Blog

戦後、国際的な企業として発展したソニーの創業者の一人である、故・盛田昭夫氏は、生前、「プロブレム・ソルビング」つまり、「問題解決」の重要性を説いていました。考えてみれば、社会の活動や人間の生活は、すべてが問題の連続であり、それらを解決するための議論をしなければ社会全体が成り立ちません。盛田さんの言われるプロブレム・ソルビングは、人間社会や組織にとって望ましくないが発生したときに、その原因を明確にし、必要があれば原因を除去し、正常な状態に戻す、一連の作業を指していたのではないかと思います。

しかし、残念なことにこの原因を究明するという重要な発想が欠落しているのが今日の状況です。ナゼ代議士の不祥事が発生するのか、ナゼ日本の外交は世界社会から遅れを取っているのか、ナゼ企業は問題が発生したときにそれを隠蔽するのか、ナゼ日本の学生の学力が低下しているのか、ナゼ教師の質が低下しているのか、そして、ナゼこの国の状況を見て国民が怒らないのか。これらの現象には、すべて原因があります。その原因を明確に分析しなければ、状況を改善することはできないのです。

ナゼこの道理が最近の社会で論じられないのか。それこそ実に不思議な現象といえます。このナゼを意識しない人間や社会は、現状維持さえも危うく、我々が望んでいる住み良い社会には一向につながりません。そういえば、マスメディアが色々な問題現象に対して、発生している状況を克明に興味本位に報道することはあっても、それらの解決策について論ずる機会はあまり見られなくなっています。どのように解決したらよいかということを、大いに議論する必要があるのではないでしょうか。

また、この「問題解決」という言葉が、企業の中堅以下の管理職教育にしか出てこない状況は果たしてよいと言えるのでしょうか。そこで、人材育成について一言触れると、昨年亡くなられた元三菱商事会長の三村庸平さんとお話したときに、私が、「企業経営にとって最も大切なことは何か」と尋ねると、次のように言ったことを今でも鮮明に覚えています。

「世の中の思想や仕組み、体制がどのように変わっても、適切な問題解決や意思決定がなされるような組織をどう作り、維持していくかということです。それには、人材の育成が要となります」と、言われたのです。本質は現象を認識することに多くのエネルギーを割くのではなく、それらの解決を適切に執り行うことに力を注ぐことだと、先達は示唆しているのだと思います。