実刑を受けた堀江被告がよく口にした言葉で「想定内」というものがあり、数年前に流行語にもなりました。実はこの想定内、そしてその反対の想定外という発想は、将来起こりうるリスクに対して、用いる場合が多いものです。
例えば、ある事故が発生した場合に原因が「想定外」だったため不可抗力とみなされ、「遺憾に思う」のひと言で一件落着という事象がわが国ではよく見られます。しかし、それらの中には、本当に想定内のリスクに対してヌケ漏れのない分析を実行し、その結果やむを得ず「想定外」になったのか、疑問に思うケースもあります。
国外では、その分析は徹底しているように思えます。例えば、フランス航空のコンコルドが離陸に失敗し墜落をした事故が思い浮かびます。これは私の憶測ですが、コンコルドでは、事前に安全の確保に対してあらゆる角度からリスクを洗い出し、問題を引き起こす原因を想定し、その原因を取り除く対策が講じられていたのだと思います。また、原因を除去する対策が機能しなかった場合に、問題発生時の影響を最小化するための二次、三次の善後策も考えられていたはずです。
その証拠に事故後にコンコルドの首脳陣は一切謝罪の言葉を口にしませんでした。事故は大変残念なことである。しかし、自分たちに落ち度はない。首脳陣には対策への万全の自信があったのでしょう。
報道によると、コンコルドの墜落の原因は、直前に離陸した某航空会社の機体の一部が滑走路上に脱落し、それが事故機の車輪が巻き込んではじき飛ばし、主翼に大きな破損を与えたことによるものだそうです。つまり、これこそ「想定外」といえるものなのではないでしょうか。
翻って日本では、私から見れば、想定外といっている現象のほとんどは、想定内で処理できるものといえます。つまり、想定内の分析が甘いというひと言に尽きます。
一方で、想定内か想定外かがはっきり判断できないグレーゾーンへの対応も考えておかなければなりません。その場合はひとまず影響を拡大させないための対策を打つことが必要となります。昨今のインフルエンザの投薬問題では、とりあえず全面的に使用を禁止し、その間に因果関係を明確にするという発想がこれにあたります。
しかし、インフルエンザ投薬問題では想定内か想定外か、つまり自分たちに落ち度があるかないかにこだわるあまり、その暫定対策をいう発想が抜けてしまい、対応が遅れているように見えます。使用を禁止して時間を稼ぎ、因果関係を究明するという、グレーゾーン発生時の適切な処理がなされていないため、対策が後手に回っている印象を与えてしまっているのではないでしょうか。
想定内を厳しく分析し、それでも、残ったグレーゾーンに対しては、発生したときの影響を拡大させないための暫定対策という発想を持つ。これが将来のリスクへのより有効な対応につながると私は思います。