飯久保廣嗣 Blog

傍観から行動へ――。これは私の人生を送る上でのテーマの1つです。私事で恐縮ですが、30年ほど前、ちょっとした出来事から、改めてその必要性を感じたことがありました。

その頃、私には喫煙の習慣がありました。当時住んでいた神奈川県のある町で、土曜日の午後、くわえタバコで自宅への帰路を歩いていました。この地域ではボーイスカウトの活動が盛んで、ちょうどその時分に幼い男の子たちが道路の清掃に一生懸命、汗を流していました。そこで、私は何の罪悪感もなく、タバコのポイ捨てをやってしまったのです。

すると、一人の男の子がやってきて、「せっかく掃除をしているのに、おじさん、タバコを道に捨てないでよ」と、極めて全うな注意を受けてしまいました。私はこの男の子の純粋で真っ直ぐな正義感に感心し、「さもありなん」と、自分の捨てたタバコを急いで拾い上げた記憶があります。

この男の子は、私に2つのことを教えてくれました。1つは、学ぶということは、上からの指導だけに限らないこと。そしてもう1つが、自分の心が動かされたときは、すぐに行動を起こすということでした。

ホンダの2代目社長・河島喜好さんは「どんな小さなことでも、感動し、行動し、工夫することが大切だ」といっておられました。また、創業者の本田宗一郎翁は、「感動するという気持ちを失ったらすべての行動がストップする」とおっしゃっていたそうです。

ホンダでは、この教訓を実行するためか、十数年前の役員にはひとつの共通点がありました。すべての役員の趣味が、クラシック音楽だったのです。この背景は、一流のものに接することによって、感性を磨くということのようでした。遡れば、創業当時の副社長であった藤沢武夫さんは、ヨーロッパのオペラをよく聴きにいかれたそうです。一方の本田翁は絵画の鑑賞に始まり、ご自分でも晩年は絵を描かれたそうです。

私は本多翁の足元にも及びませんが、小さなことにでも感動を覚え、実際の行動に移すことをより一層大切にしていきたいと思います。凡人であっても、その精神やそれを育むための工夫を、生活の中に取り入れるということはできるのではないでしょうか。