日本ほど“ナショナル・インタレスト”についての論議が少ない国はないと思います。これは、一般国民から行政、そして政治家に至るまで、言えることではないでしょうか。前回の選挙で新しく選ばれた参議院議員の国民に対するメッセージの中に、“国益”という言葉はほとんど聞かれませんでした。例外的に、陸上自衛隊のイラク派遣部隊の隊長を務めた佐藤元久氏が、述べられているくらいでした。
では、どのようなメッセージがあったのでしょうか。例を引くと、「国民のための、国民から理解される、国民の納得が得られる、国民の声を吸い上げる、国民の声に耳を傾ける……そんな政治を目指す」という発言が圧倒的に多かったようです。また、「国民の審判が下された、国民が自民党にお灸をすえた、国民が政治の流れを決めた、国民が民主党を選んだ……」といった、解説やコメントも聞かれました。
日本は格差社会に突入したといわれています。資本主義のもとでは、金儲けは企業活動の「善」であり、儲からない企業は淘汰されます。日本社会の特性を活かした資本主義システムの中でも、若くして億万長者になった人が、数多く世に出ています。
しかし、悲しいのは、大金を手にした人たちの多くが、テレビなどを通じて、豪奢な家や、その生活ぶりを、世間に披瀝していることです。儲けたカネの使い道が、単なる自己満足では、むなしさが残るのではないでしょうか。
ここで、私の米国の大学時代の同級生で、腎臓の世界的権威である友人の次男の話をしたいと思います。彼は、ゴールドマンサックスに務めた後、投資会社を起業し、40歳にして“アメリカ版ヒルズ長者”になったと、聞きました。その後、お金に不自由することがなくなり、自分のやりたいことができる立場になって、何をしたか。耳にした話は、日本の成功者とは全く異なるものでした。
外交の原点はいったいどこにあるのでしょう。以前にも触れたことがありますが、外交とは、「外国交際」を略した言葉といわれています。この「外国交際」という言葉を、文書の中に残しているのが、かの西郷隆盛です。
存命中の言葉を記した「南州翁遺訓集」によれば「正道ヲ踏ミ國ヲ以って斃ルルノ精神無クハ外國交際は全カル可カラズ 彼ノ強大ニ畏縮シ円滑ヲ主トシテ曲ケテ彼ノ意ニ順従スル時ハ軽侮ヲ招キ好親却テ破レ終ニ彼ノ制ヲ受ルニ至ラン」とあります。
また、英語のDiplomacyは、WEBSTERの辞書によると、「正当な代表者が国家間の関係をconductすること(意訳すれば、国家を代表してリーダーシップを発揮する行動をとること)」とあります。
CNNでは8月2日夜(日本時間)より、8車線陸橋崩壊の関連ニュースを、長時間放送していました。最初は、被害の規模や現場レポート、救助活動の様子を集中的に報道。ところが、24時間経過した時点で、この惨事に関する報道が、ローカルな事故から、全米、そして国際的な問題へと、その範囲を広げていったのです。
細かくその変遷を振り返ると、当初は、全米のブリッジの安全性がどうなっているのかという検証や問題提起が主な内容でした。しかし、それが引き金になって、アメリカ社会全体のインフラ整備はどうなっているのか。都市の水道の安全性や電力供給はどうかなどという、視野を広げた問題提起がなされるようになりました。