「意思決定」とは、「単純に物事を決めること」だと考える人は多いかもしれない。しかし、実はそうではない。「意思決定」のグローバルな定義は、「ある課題に対して、複数の候補の中から最適な選択肢を選ぶ」なのである。
英語では、“Making of a choice”と表現する。つまり、チョイスの概念なのである。我々が使う日本語は単数と複数を区別しない場合が多いので、この「選ぶ」という概念をあまり意識しない。品物などを選ぶ場合は複数の選択肢が目の前にあるので、自然に“Making of a choice”がなされるが、目に見えない思考作業では、そのように行かないのが現状だ。
では、どうすればグローバルの定義通りの「意思決定」を、より効率的かつ効果的に進めることができるのか。
それには、「手段や方法への短絡」を排除しなければならない。手段や方法を調べたり、検討したりする行為は実に楽しい。新しい知識により知的好奇心も満たされる。だから、人間の傾向として、それに短絡しがちである。例えば、「工場で新しい装置を購入する」などという状況では、まずカタログを集め、メーカーから担当者を招いて説明を聞く。深く考える作業はないから、楽しく進められる。
また、「工場の建設予定地の選定」というケースでは、考えられる全ての候補地について、データを綿密に調べ上げ、資料にまとめる。これもまた実に楽しい作業だろう。
だが、この進め方だと、「意思決定」の効率は極端に悪くなる。すべての装置や候補地を詳細に調べるため、膨大な時間と費用が必要となるからだ。そして、ある選択肢を勧めるグループと、他の選択肢を押すグループが対立し、社内に必要以上の感情的なしこりを残すことになるかもしれない。
従って、まず始めに取り掛からなければならないのは、「選ぶための選択基準」を決めることである。すなわち、主目的、狙い、副次的に達成したいこと、予算、使い勝手、アフターサービス体制など、「選択基準項目」を明確化し、その上で、それらの項目のウェート付けをしていくのだ。
こうすれば、基準がはっきりしているので、それについてだけ調べればことは足りる。実に効率的である。また、基準に従って選択肢の中から選ぶので、理性的であり、後の感情的な対立も防ぐことができる。そして、選び出された選択肢に関して、後に徹底的に調べればよいのである。
優れたビジネス人は、短絡で「選択肢調べを楽しむ」前に、「選定基準の合意」に知恵を絞り、汗を流す。それが、効率的で感情対立を生まない「意思決定」につながるのである。
歴史上、最も早い時期に「問題」を定義した人物は、筆者の恩師であり、友人でもあるC.H.Kepner博士であろう。
今では「古典」に分類される「The Rational Manager」(マグローヒル出版、1964年刊)において、彼は問題とは「Deviation from the Should=あるべき姿と現実の差異」定義した。
この概念は当初、「過去に起きた現象」について、当てはめられた。それは、「不良が発生してはいけない」という「あるべき姿」に対し、現時点で「不良が発生した」という状況である。「作業の遅延」、「納期の遅れ」、「売上げの未達」、「新規事業の失敗」などがこの概念に当てはまる。
「過去に起きた現象」は、「真の原因」を究明しなければ、適切な処置を講ずることはできない。この「原因究明の論理的な考え方」については後日述べることにするが、ここではまず、我々が日頃から「問題」と捉えている現象を、実践的に分類することから始めてみたい。
分類することによる大きなメリットは、「過去に起きた現象」を「課題」として設定する際に役に立つということだ。また、問題をどのように料理したらよいか、その判断を容易にすることもポイントである。
問題の分類方法については諸説あるが、最もシンプルな方法は、「発生問題」、「発掘問題」そして「創出問題」に分類することである。
「発生問題」は黙っていても、相手から飛び込んでくるものだ。われわれが直面する多くの問題はこの種類である。
一方、「発掘問題」は、存在しているものの、顕在化していない。いわば水面下にある氷山のようなものだ。この状態も、課題として明らかにしておかないと大きな事故につながる。この状況に対しては、「どんな事実があるのか」、「誰が何を言っているのか」、「普段に比べて不自然な現象はないか」といった質問に対する答えを導くことで、明らかにすることができる。
最後の「創出問題」とは、挑戦する課題が創出されてない常態をいう。こうした場合でも、「問題はありません。全て順調です」ではものごとは前進しない。問題がなくても、「目標」や「あるべき姿」を作り上げていくことで、擬似的に差異を発生させ、その差異をどのように克服するかを問題とするのである。この「創出問題」の分析を科学的・体系的に展開し、多くの応用研究テーマを作り、進歩してきたのが“ITの分野”ではないかと思う。
だたし、残念ながら、これまでの日本はこの「創出問題」を設定する際の緻密さ、また、それに対する「分析技法」が甘かったのかもしれない。その結果、日本は遅れをとったのである。技術立国を目指す日本にとって、よりチャレンジングな研究テーマを効率的に見出すためには、「創出問題」の発想とともに、高い目標を達成するための阻害要因を明らかにし、その要因をいかに克服するかを明らかにする、「分析技法」も研究課題となる。
例えば、「創出問題」は、「精密機械の回転を20%高速にする」といった具合に、より緻密かつ具体的に設定する。そして、その阻害要因を徹底的に分析し、回答を見出す。それが、「歯車が焼き切れてもたない」というのであれば、「歯車の新材質の開発」が研究テーマになるだろう(分析技法の詳細については、また別の機会に解説したい)。
ところで、この概念を拡大して広義に考えれば、問題は「過去に起きた現象」を意味するほかに、「意思決定がなされていない」、「選定基準が明確でない」、「優先順位が不適切」、「リスク分析が甘い」、「課題設定と優先順位が不明確」などもその範疇に入り、これらも「あるべき姿からの逸脱」と解釈ができる。いうまでもなく、これらの課題は「過去に起きた原因究明」では解決できないので、別の分析技法や考え方が必要になる。それも今後、追って説明していくこととしよう。
なぜ、世の中が良い方向に行かないのか。
なぜ、教育改革が進まないか。
なぜ、税金の無駄が是正されないか。
なぜ、指示待ち人間が多いのか。
なぜ、的確な提案が上がってこないのか。
なぜ、問題が大きくなってから、幹部やトップに上がってくるのか――。
ものごとを決めなければ、何も変わらない。何も変わらなければ、何も動かない。
「意思決定」という言葉は外来語である。おそらく、太平洋戦争直後に、色々な言葉や考え方が米国から到来する中、「デシジョンメイキング」という言葉も輸入され、それが、「意思決定」という日本語に置き換わったのだろう。
ところで、「意思決定」の定義をするようにと言われたら、あなたはどのように答えるだろうか。「決めることだ」、「腹をくくることだ」、「意思決定は意思決定だ」……。あるいは、「下らないことを聞くな!」となるかもしれない。
現実的な定義は「ある案件に対して最も適切な手段を選ぶことである」となる。「適切な新規事業を選ぶ」、「最適な組織を立案する」、「町おこしの目玉を選ぶ」などであり、人間やその集団は、誰でも常に「意思決定」により選択をして、生活を営んでいる。
ただし、「意思決定」は前述の通り、外来語である。そうであるならば、日本人はそれ以前に「選ぶ」という行為をどのように表現していたのだろうか。
わが先達たちは、何と3つの異なった概念を使い分けていたようだ。
それは、「極む」、「決む」、「定む」である。「極む」はものごとの極点に到達することであり、「将来を見極めること」と言い換えることもできる。それは、今日のこれも外来語である「戦略」に近いのかもしれない。「究極の目的を達成するために、何に重点投資をするのか」ということである。
次ぎの「決む」は、単に決心を表すものであろう。自分の信念や経験から意志を固めるのである。
そして最後の、「定む」は広辞苑による1つの定義に「おさまること」とある。これは複数の選択肢や意見を1つに収斂することであり、その根本には「選ぶ」という概念があると考えてよいのではないか。この「おさまる」が「複数選択肢から選ぶ」ということであれば、これこそが、グローバルに定着している「意思決定」そのものであると見てよいだろう。実は、日本の先達も、外来語が上陸する前に、「意思決定」をしていたのである。
このように、われわれが恒常的に使っている重要用語の定義や背景を明確にしないと、コミュニケーションに齟齬を起こすこともあるかもしれない。国際的な意思疎通の齟齬は命取りになりかねない。重要用語で注意したいものの中には、ほかにも、REASONと理由、OBJECTIVEと目標、COSEQUENCEと結果、TOOLと道具、などかなりあるのではないか。機会を見てまた述べてみたい。
「意思決定」は単に論理的に取り組めばいいというものでもない。日本には意思決定の名人がいる。暗算思考で結論を出す人もいる。的確な判断がなされているのに、ものごとを愚直なまでに分析しようとする西洋人と違い、名人や暗算思考の結論は正しい場合が多い。この名人芸は命がけであり、私利私欲がなく、腹が据わっているのが特徴だ。
この自分の経験や直感による意思決定も、引き続き、尊重されるべきだろう。ただし、今後は具体的な現象に対するセーフティネットも設けたい。
それは、その結論が有効な結果を出すために、「それが実行された場合にどんな問題が想定されるか」、また、「それらに対して適切な事前の対策がなされているか」を考えておくことである。これがあると、決めることは磐石になり、見直しという堂々巡りを未然に防げる。つまり、事前に熟考されている「シナリオ」に切り替えることができるのである。
日本と日本人の相対的な存在が、国際社会で低下している。そのこと事態に目くじらを立てても仕方がないかもしれない。しかし、その背景の1つが、「グローバルな問題解決を関係諸国と対等に討議・交渉する能力」が劣っていることにあるならば、そのまま放置すると大変なことになる。
西欧はもとより、アジアやインドにおいても、グローバルな問題解決には、「①智力(conceptual skill)」、「②インテグレーションされた英会話力」、が必要となるだろう。
そこで今回はそのうち②について、今日の日本人の英会話力をどのようにして強化したらよいかを述べてみたい。以下がその解決策の一部である。
1.英会話は、「自分で話すことより、相手(外国人、以下同)に話させることが重要」である。自分が話さなければならないという「呪縛」から自分を開放する。そのためには、「気の利いた簡単な質問」を用意しおくことがポイントとなる。
2.相手の回答中に理解できないことが出てきたら、遮ってでも質問する。そのためには、「自分の会話のペース」に相手を巻き込み、主導権を握るのを意識することが肝心となる。
3.初めから相手に対し、「ゆっくり話せ」、「難しい言葉は使うな」、などと、釘をさしておくこともポイント。
4.英語のネイティブ以外の人間と英語で話すことも心がける(例えば、中国人、インド人など)。「英語はネイティブの特権」という呪縛を解く。
5.自助努力としては、「自分の関心事について、自分で英訳した文章を作り、暗記すること」が挙げられる。この場合、英語として文法上で完璧である必要はない。意味が通じればよい。長さは10~15単語(One sentence)程度で充分。
6.相手を圧倒できる格調の高い英語のフレーズを1~2個準備しておく。シェークスピアでも、ドラッカーでもいい。とにかく、英会話に自信をつけること。劣等感や卑屈な姿勢が英会話上達の“最大の敵”である。
これが、英会話上達のための「知られざる」ポイントとなる。これらに取り組めば、最初の第一歩は踏み出せると、考える。
問題解決に関する英語力には、そのほか、「論理力」、「発信力」、「リーダーシップ」などが必要となる。それらのインテグレーションにより、最大限の力を発揮できる。残りのスキルについては、まだ次回以降に述べていきたい。