歴史上、最も早い時期に「問題」を定義した人物は、筆者の恩師であり、友人でもあるC.H.Kepner博士であろう。
今では「古典」に分類される「The Rational Manager」(マグローヒル出版、1964年刊)において、彼は問題とは「Deviation from the Should=あるべき姿と現実の差異」定義した。
この概念は当初、「過去に起きた現象」について、当てはめられた。それは、「不良が発生してはいけない」という「あるべき姿」に対し、現時点で「不良が発生した」という状況である。「作業の遅延」、「納期の遅れ」、「売上げの未達」、「新規事業の失敗」などがこの概念に当てはまる。
「過去に起きた現象」は、「真の原因」を究明しなければ、適切な処置を講ずることはできない。この「原因究明の論理的な考え方」については後日述べることにするが、ここではまず、我々が日頃から「問題」と捉えている現象を、実践的に分類することから始めてみたい。
分類することによる大きなメリットは、「過去に起きた現象」を「課題」として設定する際に役に立つということだ。また、問題をどのように料理したらよいか、その判断を容易にすることもポイントである。
問題の分類方法については諸説あるが、最もシンプルな方法は、「発生問題」、「発掘問題」そして「創出問題」に分類することである。
「発生問題」は黙っていても、相手から飛び込んでくるものだ。われわれが直面する多くの問題はこの種類である。
一方、「発掘問題」は、存在しているものの、顕在化していない。いわば水面下にある氷山のようなものだ。この状態も、課題として明らかにしておかないと大きな事故につながる。この状況に対しては、「どんな事実があるのか」、「誰が何を言っているのか」、「普段に比べて不自然な現象はないか」といった質問に対する答えを導くことで、明らかにすることができる。
最後の「創出問題」とは、挑戦する課題が創出されてない常態をいう。こうした場合でも、「問題はありません。全て順調です」ではものごとは前進しない。問題がなくても、「目標」や「あるべき姿」を作り上げていくことで、擬似的に差異を発生させ、その差異をどのように克服するかを問題とするのである。この「創出問題」の分析を科学的・体系的に展開し、多くの応用研究テーマを作り、進歩してきたのが“ITの分野”ではないかと思う。
だたし、残念ながら、これまでの日本はこの「創出問題」を設定する際の緻密さ、また、それに対する「分析技法」が甘かったのかもしれない。その結果、日本は遅れをとったのである。技術立国を目指す日本にとって、よりチャレンジングな研究テーマを効率的に見出すためには、「創出問題」の発想とともに、高い目標を達成するための阻害要因を明らかにし、その要因をいかに克服するかを明らかにする、「分析技法」も研究課題となる。
例えば、「創出問題」は、「精密機械の回転を20%高速にする」といった具合に、より緻密かつ具体的に設定する。そして、その阻害要因を徹底的に分析し、回答を見出す。それが、「歯車が焼き切れてもたない」というのであれば、「歯車の新材質の開発」が研究テーマになるだろう(分析技法の詳細については、また別の機会に解説したい)。
ところで、この概念を拡大して広義に考えれば、問題は「過去に起きた現象」を意味するほかに、「意思決定がなされていない」、「選定基準が明確でない」、「優先順位が不適切」、「リスク分析が甘い」、「課題設定と優先順位が不明確」などもその範疇に入り、これらも「あるべき姿からの逸脱」と解釈ができる。いうまでもなく、これらの課題は「過去に起きた原因究明」では解決できないので、別の分析技法や考え方が必要になる。それも今後、追って説明していくこととしよう。