「知識」と「智恵」は区別する。これはよく言われることだが、智恵とは何かをもう一度吟味してみよう。また、辞書を持ち出して恐縮だが、新潮国語辞典(昭和40年11月30日発行)によると「物事をよく判断し処理する心の働き」である。また、仏教では「物事の実相を観照して、惑いを絶滅し、菩提を成就する力」とある。
また、広辞苑(昭和57年10月15日版)には、「物事の理をさとり、是非善悪を弁別する心の作用。物事を思慮し、計画し、処理する力」とある。お隣の中国では知識と智恵ではなく、知識と智力とを区別して、智力の定義を「充分な知識がなくても問題を解決する力」としていると、以前このブログに書いたことがある。智恵にしろ、智力にしろ、それらの目的は人々や人間集団の存続のための問題解決である。
そこで、今回は我々が智恵を使い、物事をよく判断し処理する場合に「気をつけなければならない傾向」について記す。結論や決定の「不良」を極小化するために注意するポイントである。決定の不良は製品の不良のように目に見えないが、大きな不良処理には莫大なコストがかかる。
そのポイントとは、「智恵の敵は短絡思考」ということである。先入観であったり、思い込みであったり、特定の情報に影響されて導き出される結論こそが、意思決定の不良を生む主な原因なのである。その結論を検証しないで対策を打つのは、当然のことながら有効ではなく、間違った対策となって問題が拡大する場合もある。
短絡思考の主な例の1つは、「問題の原因に短絡して、対策を講ずること」といえる。よく見れば売れている商品もあるのに、「今年度の売り上げ不振の原因は当社の営業力の低下にあるので、それに対して対策を早急に打つ必要がある」といった類の結論を出す。これは、経営資源のムダであり、企業の収益に影響する。
短絡思考のもう1つの主な例は、「意思決定において、手段や方法、選択肢に短絡すること」である。「ある有力者が推薦している、過去に成功した、だからうまくいく」という短絡である。この場合、「デメリットの分析を無視している」、「選定基準の設定が適切でない」など、意思決定の内容を充分思慮しないで、決定し実行してしまう傾向が現れる。しかも、もしうまくいかない場合の「予備計画」もなく、ひたすら頑張ってしまう。これを継続した場合のConsequence(ある行動を実施した結果、起こり得るマイナス)は自明である。
短絡思考に陥ってないか――。意思決定や問題解決の場面では、常に意識したい点である。