「このところ日米関係に対立した問題はなく、従って両国の関係は良好である」というのが最近の日米関係に対する多くの認識である。しかし、そうした認識が続いた結果、起こったことがある。それは、“Japan”という活字や関連する発言が米国のメディアからほとんど姿を消してしまったことだ。それに替わって、頻繁に上げられる国が中国、インド、ブラジル、そして別の観点からの中近東諸国である。
米国大統領のキャンペーンにおけるオバマ候補の発言にも“Japan”はほとんど出てこなかった。このことを捉えて、「現在の日米関係が良好であり、解決するべき課題がない」と判断することは適当ではない。対立する利害関係がないことは結構であるが、そこで思考停止をされても困るのである。
オバマ候補が「変化―CHANGE」をスローガンに勝利したのであれば、我々日本国民としてもチャレンジングな日米関係のあり方を建設的な課題として提示し、問題解決を図るための前向きの緊張関係を作り上げることを望みたいのである。
利害が必ずしも一致しない国家間の付き合いで、「良好な相互信頼を構築する」ということは、必ずしも波風の立たない静寂の状態を維持することではないのかもしれない。国際社会の紛争を解決し、安定を維持するために、建設的な課題に対して緊張した状況の中で問題解決を図る過程から、さらなる理解と信頼関係が生まれてくると考えたい。この意味からも、オバマ時代の日米関係には日本側から革新的な課題を提供したいものである。
例えば……
●現在の憲法下であっても、極東の安定のために、中国の最近の軍事力の強化を考えて、日本の海軍と空軍の軍備をどの程度増強する必要があるか。
●また、その結果どのような問題が発生し、どのような現実的な対応ができるか。
●日米の優秀な人的資源を世界の安定のためにどのように活用できるか。
●化石燃料に変わる原子力発電を地球規模でどのように安全に開発しマネージするのか。
●軍事的な方法以外に紛争を解決する手段を日米でどう開発するか。
●中国のプレゼンスの拡大に対応する日米同盟はこれからも強化するのか否か。
●日米の先端技術領域で平和と安定のための共同開発テーマをどのように展開するか。
……など、枚挙にいとまがない。しかし、これらは、日本側から日本のイニシャチブで発信することに意味がある。
オバマ新米大統領はそのお人柄からして、日本側の受身の姿勢に対しては苛立ちを感じるのではないかと思う。日米関係のCHANGEに対して積極的な問題提起をする日本こそを、逞しいパートナーとして認めるのではないだろうか。
それにしても、11月2日のNHK番組、「ホワイトハウスに日本を売り込め」というのがあった。何故、アメリカに日本を売り込む必要があるのか。第三者に対して自分を売り込むということは、対等な立場でないことを意味する。このような行動をとっておいて、一方「日本は米国の言いなりだ。米国に追従している」と煽り立てる。国民もそのように思い込んでしまう。
また、よく目にすることは、相手に「理解を求める」という発想である。これも相手と対等な立場にあることではない。国際社会では卑屈な行動として見られる。米国をはじめ世界の主要国が相手に「理解を求める」といったことはほとんどないのではないだろうか。また、途上国ですら、「要求する」「説明を求める」「主張する」であって、「理解を求める」という発想はないのではないか。「理解を求める」は物事を円満に収めるという文化を持つ日本社会でのみ通用する発想であることを再認識したい。
繰り返しになるが、日米関係の強化と世界社会の安定のために、日米共同で展開できるグローバルな「CHANGE」に対して、オバマ新米大統領に日本も日本人も大いに革新的な問題を提示したいものである。静寂はいつか破られる。そうであるならば、建設的な緊張関係を創るためのイニシャチブを日本から発信したいのである。