飯久保廣嗣 Blog

2009年02月23日

クリントン米国務長官が来日し、分刻みで日本の要人と会見した。これは日本における米国のイメージアップにかなり好影響を与えたと思われる。

最初の外遊先として日本を選んだことは、日米関係の重要性を確認する意味があり、これは歓迎すべきことである。日本のマスメディアもこの論調で訪日を評価している。

しかし、外遊の順序が日本→インドネシア→韓国→中国であることを思うと、単純に日本が最重要視されているという図式にはならないのではないだろうか。

オバマ政権が抱えている課題は、イラクとアフガニスタンの2つの戦争である。また、最優先すべきもう1つの課題は、米国経済の建て直しである。

これを踏まえた上で、シナリオを想定すると、中国が最後の訪問国である必然性が何かをどうしても考えてしまう。日本から戦争と経済に対する協力を引き出し、最大のイスラム国家であるインドネシアでテロ対策の検討をし、韓国でアフガニスタンへの派兵の可能性を打診し、それを携えて中国と最終的なアジアにおける安全保障と経済対策を討議する。このシナリオは、うがった見方であろうか。

一方で、米国の優先課題に対し、クリントン国務長官が日本にどのような協力を要請したかが、国民としては知りたいところである。マスメディアには、最低限、今回の訪日における各会見の主な議題ぐらいは、取材し、情報提供してほしいものだ。ただ単に、正確な行動スケジュールを追うのではなく、その背景に何があり、どのような意図や目的があったかを取材・分析していただきたい。そうでなければ、今回のクリントン国務長官訪日の真の意味を見誤る可能性があるといっても過言ではない。

それにしても、クリントン国務長官の絶え間ない笑顔や質素な服装は、米国の厳しい現実を踏まえた、実に見事な演出といわざるを得ない。このしたたかさも参考にしたい。

2009年02月16日

企業は常に問題発生や非常事態の発生を想定し、マスメディアへの対応を準備しておかなければならない。この際重要なことはメディア対応への論理的な思考の枠組みを確立しておくことである。この思考の枠組みを持つことにより、事態の拡大を防ぎ、対外的な悪影響を少なくすることが可能になる。

下記は問題が発生し、それが公になり、メディアに対応する場合、どのような発想をしたらよいかの一部を説明するものである。

1.問題の想定と対策の立案
問題になりそうな諸不祥事や諸クレームを予め想定し対策を考えておく。この対策を的確に設定するためには、「問題は起きないだろう」と考えることから、「問題は起こりうる」と言う発想の転換が必要である。また、できるだけ、「クレームの発生」という漠然とした想定ではなく「XX製品に△△不良が発生」というように具体的に考えることが肝要である。

2.暫定対策の事前策定
この対策は、問題発生状況の拡大を防ぐ対策である。組織への損害を最小限にとどめるための対策を事前に策定しておく。そして、問題が起きたらその対策を発動し、取材や記者会見ではこの対策が実行されたことを開示する。

3.情報収集の枠組みの構築
発生現象を的確に把握するための情報収集の枠組みを予め定めておく。その発想は、「何が」、「どうした」、「いつ」、「どこで」、「どれくらい」の5つの切り口(項目)をベースとする。例えば、「A電気製品」の「配線不良」が「X年X月」に「関東地区」の「25店舗」で発生した、といった具合である。また、発生現象のポイントを絞るために、起きていない対象や現象に関する情報も集める。例えば、「B、C電気製品ではない」、「機能不良ではない」、「X年X月以前には発生していない」、「関東地区以外では問題ない」、「関東の25店舗以外では発生していない」という情報を収集する。これを「ある/ない情報の収集」という。

4.不明確項目の調査と開示
上記3について、すぐに明確にならない項目に対しては調査する。その場合、「現在『いつ』については、調査中」、「調査中だった『いつ』については、判明したので報告します」と、
進捗状況をその都度結果をメディアに開示する。

5.推定原因の消去
推定される複数の原因を判断し、それらのうち、真の原因でないものを論理的に消去する。これは、上記の「ある/ない」の一対の事実の矛盾を見ることで、判断する。

上記の例でいえば、仮に「A電気製品の配線不良」が推定原因とした場合、「関東地区」に起きていて「関東以外」で起きていないという事実を説明できない。また、「関東の25店舗」で問題が発生して、「関東の25店舗以外」で発生していないことも、論理的に説明できない。だから、「配線不良」は原因にはならない。

メディアからの「会社の製造工程に問題があるのでは?」、「品質管理体制が機能していないのでは?」といった非難や告発に対し、上記のような説明で、論破することが可能になる。

現実は、上記のように単純ではないにしても、起こりうるトラブルを予め想定し、対応を考えておくことは、問題の拡大防止に役立つ。さらに、マスメディアにも冷静に対応することができる。問題発生のメディアに対する初期の対応の良し悪しで、必要以上に傷口が広がるのを、防ぐことが可能となるのである。

2009年02月09日

前にも触れた、米国駐日大使に内定しているジョセ・ナイ博士は、ソフトパワーの重要性を説いている。来日が決っているヒラリー米国国務長官もこのことに言及している。

ナイ博士はこのソフトパワー以外に、“コンテクチュアル・インテリジェンス”という概念を打ち出し、これが世界のリーダー達に欠かせない要件であると説いている。

これは定義が難しいが、あえて言うとすれば、「全体像をおさえて、物事の本質を見極め、適切な判断を迅速に行うための能力」といえる。この能力を我国の心ある政治家にも備えてもらいたいものである。

ところで、最近、オバマ米大統領の選挙キャンペーンに携わった人が、日本の経済界の米国に対する姿勢に危機感を抱いている。それは、どのような背景や理由があったにせよ、日本経団連のニューヨーク事務所が最近閉鎖され、これが、日本の財界人の米国に対するメッセージであるとワシントンで受け取られていることへの危機感である。

日米が協力して直面する金融危機と未曾有の景気後退を解決するためには、日本の財界のリーダーにも、ナイ博士が提唱する“コンテクチュアル・インテリジェンス”を求めたいものである。

2009年02月02日

ますます元気がなくなる日本で、「リスクテイキングを果敢にやれ」というスローガンがよく聞かれる。「リスクのないところに益なし」ではあるが、闇雲にリスクテイキングすることは、それこそリスクが大きい。リスクの単純な定義は、「起こり得る損害」、「起こり得る損傷」、「起こり得る損失」の3つとなる。3つの違いは、損害はDamage、損傷はInjury、損失はLossである。余談だが、機会損失はOpportunity Lossとなる。

リスクを取るということは、上記のような現象を想定して、それらに有効な対策を講じるという一連の行為を指す。リスクの取りっ放しではいくら経営資源があってももたない。リスクへの対応は、上記の損害、損傷、損失を起こり得る現象として想定することからはじまる。

例えば、金融商品を購入する場合では、損失が発生することがリスクになる。金融用語では、リスクヘッジといわれる対策を講じることになる。これは常識であるが、金融機関などは主に実施しているものの、個人では疎かになっているケースがほとんどではないだろうか。

また、株式投資も、リスクを取る際の一連の行為が必要となる。この場合、株式の相場の下落を予防する対策はない。したがって、株価が下落した場合の状態を想定し、どのような対応をするかを予め決めておくことが、リスクテイキングの重要な要素となる。

このようにただリスクを取るだけでなく、起きた場合の対策を含めなければリスクテイキングにならないのである。この場合の対策は、発生するかもしれないダメージやロスを最小限に抑えるための備えである。株式投資で言えば、持っている銘柄が○○%下落したときに、発動するコンティンジェンシー計画を持っておくである。このコンティンジェンシーは当然状況に応じて見直す必要がある。

日本人がリスクテイキングをしない背景の1つは、このコンティンジェンシーの発想が薄いからである。つまり、「問題が起きたらいけない」と考え、思考停止に陥ることにより、結果的にリスクを取らないことが安全と考えてしまうのである。例えば、株式で言えば、相場の下落を防ぐ予防対策はなく、上記のコンティンジェンシーの発想がないために、ますますリスクテイキングしないことになるのではないか。

もう1つは、「問題を起こしたらいけない」という非現実的な発想が根底にあることも否めない。直近の例で言えば、海上自衛隊の艦船は絶対に事故を起こしてはいけない。原子力発電所は、絶対にどんなミスも起こしてはいけない。大企業は絶対に不祥事を起こしてはいけない、などが挙げられる。

こうした発想が起こるのは、原子力発電は「危険か、安全か」という設問をすることに原因がある。当事者がこのような質問を受ければ、当然「安全」といわざるを得ない。安全といってしまっては、事故が発生した時点でそれを開示することはできなくなる。すなわち隠蔽することとなる。

この発想を転換するためには、設問を変えなければならない。例えば、「危険か、安全か」から、「安全を確保するためにどのような対策を講じているか?」、「万が一事故が発生した場合の対策にはどのようなものがあるか?」などに変えることである。起こり得る問題を未然に防ぐための予防対策と、発生したときのコンティンジェンシー対策を個別に設定することが肝要である。