最近、新聞や雑誌、書籍などで、「論理思考」に関する記述やタイトルがほとんど見られなくなった。このことは、日本の組織・社会で物事を筋道を立てて考えることに、人々が関心を持たなくなったことの証左ではないか。
なぜこのような状況になったのか。個人も組織も自己武装のために、研修や書籍によって、学習をした時代が続いたが、現実的にはあまり実践に役に立たなかった。その背景には、いくつかのことが考えられるが、その1つは、論理思考を短時間で身に付けることができるという、安易な期待感が個人や組織にあったことではないか。一方で、学習した教材や研修の内容に、問題があったことも挙げられるだろう。さらには、論理的思考プロセスのステップを単に知識として理解すれば実践できるという錯覚があったことである。
言い換えれば、論理的な思考についての知識をいくら学んでも、関連する各々の考え方の“Why”(根拠)を理解しなければ、あらゆる実践的な場面で柔軟に使うことはできない。例えば、意思決定においては、「目的や目標を明確にすること」が必要であるといわれる。では、「なぜ、目的や目標を明確にしなければならないのか」を、考えたことがあるだろうか。
日本の知識偏重教育においては、物事の「なぜ」を考えさせる機会は皆無に等しい。その結果、いきなりこのような設問をされると、皆さんは戸惑うことになる。前述に戻り、「目的や目標」の「なぜ」を考えてみると、その1つは、意思決定において、ある案を選定し実施した場合のアウトプットを事前に設定することが重要だからである。また、その決定に対する制約条件(人・モノ・カネ・技術・時間・場所など)を明確にする必要があるからである。これらの項目は、結果的に複数選択肢を選定する場合の判断基準となる。
これ1つをとっても、論理思考における思考の手順には深い意味があり、これを理解することが、本来の論理武装の本質なのである。ますますグローバル化する時代において、我々ビジネス人が個々の能力を強化する上で、こうした“Why”を理解し、論理的な考え方を見直すことが重要なのではないだろうか。