飯久保廣嗣 Blog

2009年09月29日

今回は組織で発生する課題や問題を解決する際に有効な、論理思考力をベースにした質問の方法を、それぞれの設定ごとにいくつか紹介していきたい。明日から使えるものばかりなので、ぜひ活用していただければと思う。

●現状を適切に把握し課題を明確にする質問形
①抽象的ではなく、具体的に複数の課題として設定するとどうなるか?
②意思決定をする前に問題の原因はなんだと考えられるか?
③優先順位を判断する場合の基準をどう考えるのか?
④木を見て森を見ないという短絡をどう回避するか?

●問題現象に対してその対応を迫られているときの質問形
①対策を講じるにあたって、どのような原因を確定しようとしているのか?
②真の原因を特定する場合にどのような事実関係で検証したのか?
③問題解決のためにどのような本質的な対策を講じているのか?

●適切な意思決定をしなければならない場合の質問形
①提示された案件の決定事項をどう明確に設定するのか?
②どのような目的やねらい(Objective)を達成するか?
③どのような選択肢(Alternative)が考えられるのか?
④どのような選択基準(Criteria)で判断をするのか?
⑤選択肢の修正案を考えると、どうなるのか?
⑥選択肢のマイナス要因や副作用(Consequence)をどのように想定しているのか?
⑦マイナス要因や副作用に対してどのような対策を考えているのか?

●組織の経営や重要案件の推進を確実にするための質問形
①この案件のどこが心配なのか(重大領域)? 複数挙げるとどうなるか?
②それらの重大領域で起こりうる具体的な現象を想定すると何か?
③具体的な問題に対して予防対策をどのように講じているのか?
④問題発生時を想定してその影響を最小化する対策がどのように講じられているのか?
⑤これらの対策を再検討するタイミングをどう考えるのか?

2009年09月22日

役員クラス、さらにはトップになれば、問題解決や意思決定の精度と迅速性がさらに要求される。

各部門から上がってくる諸重要案件の決裁をし、組織にとって望ましい部分を伸ばし、一方でマイナスを除去する判断の連続である。このことは、グローバル化の中で存続するために、組織をどうするかという基本的な課題に、答えを出していくことに他ならない。

三菱商事の社長・会長を務められた三村康平氏は、トップの役割についてこう述べた。

「世の中がどのように変わっても、きちっとした意思決定ができる組織を確立し、それを維持することである」

この三村氏の考え方をどのように自分の組織で確立するかが、ラショナル思考を展開するCEO・役員の最も重要な命題であると思う。

これを、別の表現で言えば、「組織の“意思決定のコスト”をどのように削減したらよいか」ということになる。

製造コストの削減を達成した日本の産業界が、目に見えない思考業務の効率をいかに向上させるかが、CEO・役員の大きな責務といっても過言ではない。

また、CEO・役員にとっての重要な発想の転換は、「部下に対してどのような質問をして意思決定をするか」ということである。

特に重視すべきポイントは、CEOや役員が決裁において、タブーとされる質問をしないことである。

それは、

「この計画は問題ないね」
「これは本当に大丈夫だね」
「この決定に対して責任を持ってくれるね」

という質問である。こういった質問をされると部下は、「実は問題があります」とは答えにくい。このようにして、起こりうるリスクを隠蔽する状況に陥ることを避けなければならない。

国外では、想定外の大きな問題が起きた場合は、経営者は謝罪をしたり、責任を取って辞任するということはまず起きない。

日本との違いはいったい何か。それは、「問題や事故は起こりうる」ことを前提に諸対策を講じているかいないかである。したがって、上記のような質問は欧米ではしないのである。

組織のCEOが責任を取るのは、起こりうる問題や事故に対し、それらの発生を防止するための予防対策にヌケ・モレがあった場合である。また、問題が発生した際の影響を最小化するための対策に同じようにヌケ・モレがあった場合である。この場合は、単なる謝罪や辞任では済まされず、刑事問題となる。

これは、CEOや役員が将来の起こりうる問題に対し、徹底的かつ具体的に発生しうる現象を想定し、それらに対する対策を立てる必要性を示している。日本の企業風土はリスクに対して考え方が甘く、謝罪をすれば問題が解決すると思っている節がある。このことが、将来問題への対応の甘さにつながっていることを十分に認識したい。

2009年09月15日

仕事とは問題解決、意思決定、リスク対応の連続である。特にマネジャーにもなれば、そうした「思考業務」の割合が飛躍的に多くなる。

しかしマネジャーの中には、自分が「問題解決者」であるという自覚が足りない人が多い。そのため思考の修練を怠って、「思いつき」によって組織を動かし、部下を困惑させると同時に、失敗を繰り返していることが少なくない。

問題解決には「知識」「智力」が必要である。智力は問題解決の基本的な思考様式と考え方である。そして、理想的な問題解決者となるには、「問題」とは何かについて正しい理解が欠かせない。

例えば、原因究明に関する問題を分類すると、「発生問題」、「発掘問題」、「創出問題」の3つになる。「発生問題」は突発的に発生する現象であり、製品の不具合、市場からの商品クレームなど、問題のほうから飛び込んでくるものである。

「発掘問題」は問題として存在はしているものの顕在化していない。事業部の売上の減少が継続している(氷山の一角)、なんとなく部門内の士気が上がらないなどである。発掘問題については、鋭い質問による対応が考えられる。「どのような現象がどこで起きているのか」、「誰が何を言っているのか」で、対応できる。

「創出問題」は、一見、「あるべき姿」と「現実」に差異がない状態における問題である。一般的に「当部門ではすべて順調で問題はありません」という考えこそが、実は問題だ。

そうした際にはチャレンジングな課題をつくり出す姿勢が必要なのである。たとえば「売上目標が達成されている」、「工場の生産性が計画通りである」という状況に対して、より高い目標を設定し、それを達成するための課題を明確にすることが必要となる。

ラショナル思考的に考えれば、「あるべき姿」を現実的に上位展開することによって、そこに人為的な差異を生じさせ、その差異を克服する手段を課題として設定することになる。

この創出問題へのもう一つの考え方は「リスク対応」の応用である。発想としては「○○工程の時間を20%削減することに対するリスク対応」あるいは「△△地区の販売目標を10%増加することに対するリスク対応」という発想で、それを達成するための阻害要因をどのように克服するかがポイントとなる。

2009年09月02日

本日は、筆者の自己宣伝をさせていただきたいと思います。それは、日本経済新聞社より、本年9月8日発刊で『組織で使える論理思考力』という本を出版するということです。

本書の「はじめに」から引用します。

「最近、新聞や雑誌、書籍などで、「論理思考」に関する記述やタイトルがあまり見られなくなった。日本の組織・社会でものごとの筋道を立てて考えることに、人々が関心を持たなくなった証左ではないだろうか。長きにわたり論理思考の普及指導に携わってきた者として、大いに憂うべき状況である。」

「論理思考における思考の手順には深い意味があり、その意味を理解することが、本来の論理武装の本質なのである。そして論理思考の技術を身につければ、どのような局面でも、たとえば不合理がまかり通る組織の内部でも、十分に活用することが可能なのだ。」

「グローバル化が進む時代においては、むしろ論理思考の重要性はますます高まる。日本でのみ有効に通用していた日本人の「思考様式」は非効率的なため、世界では通用しない。組織が抱える不合理性というものをものりこえて応用可能な思考技術について、皆さんと考えてまいりたい。」

できるだけ多くの人に読んでいただくために、手ごろな本にしました。価格も本体定価が850円です。組織の論理と個人の論理にどう折り合いを付けるか。直線的な論理思考を超えて、真に役に立つ「頭の使い方」を、自身の経験に基づく事例を交えて書いたものです。

次回から数回にわたり、本書から引用して、参考になるような内容をこのブログで発信します。