飯久保廣嗣 Blog

今回も、筆者の新刊『組織で使える論理思考力』(日経プレミアシリーズ)の内容から、話題を提供したいと思う。

さて、日本では組織や個人の論理的な思考能力があまり向上していないといわれているが、それはなぜだろうか。筆者は「論理のみで動かない日本の組織では、論理思考力は役に立たない」という印象を持たれている人が多いことが、主な背景ではないかと思っている。そのため、学習や教育も深まらず、実践にもあまりつながらない状況になっているのではないか。

そういった印象を持つ原因にはいくつか思い当たる節がある。まず、個人も組織も「論理思考は短時間で身につけられる」という、安易な期待を抱き、その期待が裏切られ続けたのではないか。筆者の反省点でもあるが、教材や研修の内容を改善する余地はあっただろう。

また、論理的思考プロセスのステップを、単なる「知識」として理解すれば、即座に実践できるという「錯覚」もあったのではと思われる。それは不可能である。論理思考についての「知識」をいくら学んでも、その思考法の「根拠」を理解しなければ、実践的な場面では柔軟に使うことはできない。
例えば、意思決定において、「目的や目標を明確にすること」が必要であるといわれる。では、「なぜ、目的や目標を明確にしなければならないのか」と問われたら、何と答えるか。

この「なぜ」がすなわち「根拠」なのである。この問いに対する答えは、「意思決定において、ある案を選定し実施した場合の狙いやアウトプットを事前に設定することが重要なため」ということになる。

また、「その決定の制約条件(人・モノ・カネ・技術・情報・時間・場所など)を明確にする必要があるが、それはなぜか」と問われたらどうだろうか。答えは、「これらの項目は、結果的に複数選択肢を選定する場合の判断基準、いわば“ものさし”になるから」となる。

答えはこれだけではなく、根本的な考え方や思想、立場、状況によって若干変わってくるだろう。重要なのは、ここまで深く「根拠」を考えることである。それによってはじめて、実践的な場面での活用が見えてくる。

論理思考における思考の手順には深い意味があり、その意味を理解することが、本来の論理武装の本質なのである。そして、論理思考の技術を身につければ、どのような局面でも、たとえばそれが不合理がまかり通る組織の内部ででも、十分に活用することが可能になるのである。

本では、組織において、どのように論理思考力を活用していくかを、詳しく述べている。それは、従来のツールや関連本が役に立たないと感じられた方々も、理解し、納得し、実践できる内容となっている。ご一読いただければ幸いである。

組織で使える論理思考力(日経プレミアシリーズ)