※しばらくブログをさぼっていました。ある友人が「あれはどうした」といわれたので再開します。
2009年10月31日にダライ・ラマが日本外国特派員協会で記者会見をした。その場に参画した私の感想を述べてみたい。時間は45分が講演、45分が質疑応答であった。
当然チベットに対する中国政府の弾圧に関する内容が主であると予想していた。しかし、内容は極めて哲学的・思想的なものであった。もっとも、質疑応答で中国新華社通信の若い在日特派員の無礼な一方的な質問に、中国批判をし、それだけが日本の一部新聞に報道されたことは大変不幸であり、公平ではなかった。
朝10時からの会見に正確に9:58に会場に到着。司会者の紹介の後の第一声が何であるかに興味を持っていた。なんと、“Brothers and Sisters.”であった。通常は、“Ladies and Gentleman”だが、日本人はこの2つの違いがわからない。後者は英国で伝統的に特権階級に向けて発する表現であり、前者こそ平等な問いかけなのである。そこをわきまえていることにまず感銘を受けた。その後の講演も原稿は一切なしであり、言葉は終始英語。聴衆を魅了する講演であった。
まず、世界同時金融危機の根本的な原因は、人間のGREED(貪欲・強欲)とSPECULATION(思惑)であると指摘。この状況を解決すためには倫理観が必要であるが、倫理を特定の宗教に求めることは適当ではない。宗教を離れたPRINCIPLE (原理原則・法則、主義・道義、正道・正義)が必要であると、説いた。
また、地球規模での教育の問題に関しての言及もあった。その根本は「現代人に欠けているものが何かを追求する“リサーチ”をしなければならないということ。その中心になるものの中にこそ、AFFECTION (愛情・情熱を持って打ち込む心)、COMPASSION(共感する暖かい心)、そしてWARMTH(優しさ。思いやり)があると述べた。
倫理の源泉を宗教に求めるのではなく、COMMON SENSE(常識)とSCIENCE(科学性)を考えるべきであるとも述べた。ここで私は通常、常識的と訳されるCOMMON SENSEについて解説を試みたい。ウェッブスター辞書によるとCOMMON SENSEとは「対等な立場で人々が互いに受け入れる公における共通の見解や認識能力」とでもいおうか。
一方、SCIENCEは普遍的法則であり、観察によって生まれるシステム化・体系化された知識といえるだろう。そこを出発点として論理や理性への展開が図られるのである。これは人類の共通の財産ともいえよう。
またCOMMON SENSEとSCIENCEを基本にする倫理観は、江戸時代における商道徳や家訓につながるものかもしれない。
さらに、教育については、その根本は宗教を使わずに人類愛、つまり“GOOD HEART”を育てることであると説く。わが国の教育者に聞いてもらいたい定義ではなかろうか。
最後に、ダライ・ラマは自身の生涯プロジェクトとして、①宗教を用いずに、前述の“GOOD HEART”を教育する方法の開発、②RELIGIOUS HARMONY(人類の宗教間の和解促進)といって、講演を閉じた。
今回のダライ・ラマの話を聞いて、西洋における宗教のリーダーが、ローマ法王であるならば、非西洋のリーダーはダライ・ラマをおいてほかにはいないと感じた。
余談ではあるが、ダライ・ラマの後継者は自分が指名するのではなく、本山のダライ・ラマ財団が指名をするそうである。既に指名を受けた人物はいるはずだが、誰であるかは、まだ発表されていない。わが国ではエリート教育の必要性が盛んに言われるが、もっと重要なことは、ポテンシャルを持った若者をどのようにして発掘するかということである。